影について 5
ゲド自身は、名付けの長のところで、魂をもつ名まえである太古からの言葉を教わった帰り道、アースシーの南部にのみ住むという小動物に出会います。
こげ茶の光沢のある毛におおわれて、吠えも鳴きもしませんが、鋭いきばを持っていて、小さいわりには狸猛で人になれないオタクという動物です。
しかし、不思議とゲドになついて、彼のマントのひだの中に住みついてしまいます。
オタクというのは通称で、この動物もまたヘグという真の名を持っていますが、おそらく動・植物の場合には、真の名は個としての名というより、その種類全体がもつ特殊な性質をあらわす隠された名でしょう。
オタクはそういう意味ではネマール師のカラスとは少々違う性格を持っていて、カラスは明らかに悪の面をあらわしています。
しかし、オタクはむしろ、よき動物であり、北方生まれのゲドに欠けている官能的な暖かさのようなものです。
後にゲドがオスキル島に行った時に、厳しい寒さの中でオタクがなにものかに襲われて死に、その後でゲドが魔女に誘惑されそうになる挿話も、これとかかわりがあるように思われます。